二宮駅北口の商店街に、二宮を描いた葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景 相州梅澤左」の壁画アートが現れた。外国の街角にありそうな作品だ。制作したのは、アート事業を展開するEastside Transition(EST)の共同代表経営者・野崎良太さんと乙部遊さん。地域活性化を目指して壁画プロジェクトに取り組んでいる。
生涯学習センター方面から商店街を二宮駅に向かって進むと、目に飛び込んでくる壁画。フルサワ印刷の建物に描かれた。大きさは横11・5m×縦2・6m。「相州梅澤左」の両サイドには写楽で有名な役者絵と喜多川歌麿の美人画があしらわれている。「浮世絵にあまりなじみのない若い人にも、かっこいいと思ってもらえるように描いた」とアーティストの乙部さんは話す。
年明けから制作にかかり、吾妻山の菜の花が見ごろを迎え、大勢の観光客が訪れるタイミングに合わせて完成した。通りがかりの年配者も注目し、スマートフォンで写真を撮っていく。壁画制作を依頼した同印刷会社社長の真下美紀さんは「斬新な壁画アートで、二宮を世界に向けてアピールできる」と出来栄えに見入った。同じ通りにある衣料・輸入雑貨店D-BOXのアメリカンな雰囲気漂う壁画もESTの制作によるものだ。
8・5でつながる
乙部さんとアートディレクターを務める野崎さんは藤沢市出身で高校の同級生。「アートのハードルを下げ、日常生活の中でアートに親しみ楽しんでもらいたい」「海外で培ったものをイーストサイドの日本に遷移させる」という思いから、2019年に山西の国道1号沿いでギャラリー「8・5House」を開設した。野崎さんは海外で仕事をした経験があり、乙部さんはニューヨークに10年年滞在し、個展や展覧会で作品を発表した。
二宮とその近隣をAREA8・5(エリアハッテンゴ)として地域を盛り上げようと、共鳴する人たちがつながり、ESTの二人はまちなかに壁画を描くプロジェクトに力を注ぐ。駅南口のエドヤガレージの壁画アートが、第1号。2020年10月に完成したもので、野崎さんたちの活動に賛同した施主が制作の場を提供してくれたという。車好きなオーナーの希望でイギリスの自動車メーカー創業者ら人物の横顔を描いた。「うちにも描いてほしい」と依頼が次々に入り、観光地引網市五郎丸の小屋や空き倉庫、個人宅、店舗のシャッターなどに制作。エリア内では8カ所、大阪府などへ出張して描いた作品も含めると、11カ所ある。
8・5は、二宮が東海道五十三次の8番目の宿場である大磯と9番目の小田原の間にあるから。ギャラリーとアトリエを兼ねた乙部さんの住まいを手掛けた建築家がその建物を「8・5ハウス」と名づけたことに由来する。「プロジェクトを通じて自分も壁画を描きたい、もっと上手く描けると次の世代がチャレンジできる環境を整え、地域に愛着や誇りを持てるようになれば」と乙部さんたちは期待する。
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