書籍『近代日本の別荘建築 湘南大磯の邸園文化』を出版した 水沼 淑子さん 茅ヶ崎市在住 70歳
邸園から「暮らし」感じて
○…「日本を代表するような著名な人たちが群居している、大磯のような町は他にない」と目を輝かせる。関東学院大学名誉教授。近代建築史の専門家として、旧三井守之助大磯別荘の保存活動に携わったほか、明治記念大磯邸園のプロジェクトにも初期から参加した。2020年3月に「大磯の別荘文化にしっかり向き合いたい」と研究のために早期退職。その成果をまとめた著書『近代日本の別荘建築 湘南大磯の邸園文化』(創元社)を4月に出版した。「明治記念大磯邸園の一般公開まで見届けられそうでうれしい。建物の価値を伝えられれば」
○…茅ヶ崎市出身。「自分自身の力で生きていくために専門性の高い建築家を目指した」と、日本女子大学で住居学を学んだ。設計事務所に3年間務めたのち、母校の大学院へ。学科助手を務めながら博士号取得のため論文を執筆。その間、子育ても両立させた。「学内の保育園に子どもを預け、昼休みに授乳しに行くことも。周りに恵まれて、研究と仕事を両立できた」と振り返る。
○…建築を通して見つめるのは、そこに根付いていた「暮らし」だ。「どういう思いで作ったのか、その背景にあるものが建物に如実に表れているとうれしくなる」。大磯の邸園文化を研究する中で、三井家や岩崎家、徳川家などの全国に眠る資料を辿り、図面のほか、使用人の日記などから暮らしぶりを紐解いていった。「記録を見ていると、大磯駅から歩いているだけで、西園寺公望と伊藤博文が出くわして『おぉ』と声を掛け合ったりしている。名だたる人物たちが、大磯だからこそ、東京とは違った普段着の姿で語ることができたのでは。地元の人に読んでほしい」と目を細めていた。