県西地域で唯一、部として活動する旭丘高校相撲部(岸田光弘監督・45)。現在7人の部員が在籍し、関東や全国大会に出場するなど好成績を収めているが、その始まりは、何もないゼロからの出発だった。
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「気持ちがあるなら、絶対強くしてやる」。地域の相撲大会で出会った岸田監督に声を掛けられ、千葉醇也さんは旭丘高に入学。相撲同好会を2011年に立ち上げた。当時は相撲を取れる環境などなく、校舎の中庭に石灰で円を描いた即席土俵で稽古に励んだ。「稽古はきつかったが充実していた」。千葉さんは在学時代をこう振り返る。
水野浩校長のもと、学校では相撲の持つ教育の可能性を見出し、授業に取り入れるようになった。翌年には2面の土俵が完成。身体の調子をはかり、整える上で重要とされる「調体柱」も、地元の林業関係者の厚意で備え付けられた。
地域の思いを受け、少しずつ土俵が整うにつれ、部員も着実に力をつけていった。2016年にはモンゴルから留学生を迎え、新風が吹いた。チームはこの年、全国高校総体に団体初出場を果たす。躍進を遂げたチームは今、「尊敬できる先生と先輩がいて、立派な環境があるから」と、親元を離れて部員が集うまでに成長した。
そして今年―。部の前身を築き、初代主将を務めた千葉さんもまた、教師として母校に帰ってきた。在学中、関東出場という結果も残し、3年間で得たのは達成感と自身の成長、そして感謝の心だった。「信じて、努力してきた道は間違いじゃなかった。いつか岸田先生のような人になりたい」
応援し、支えてくれる人がいる。環境がある。感恩戴徳(かんおんたいとく)を胸に、日々稽古に励むこと―。創部以来変わらぬ信条が、ここにはあるのだ。
父として、説く教え
相撲は何も持たず、まわし一本で土俵にあがり、身体一つでぶつかり合う。自己が如実に現れる、シンプルながら奥が深い武道の世界だ。誤魔化しが効かないゆえに日々の努力と、感謝の気持ちや謙虚な心が重要となる。
岸田監督はこうした相撲道こそ「人格形成」と説く。だからこそ、今の子どもたちに教えたい―。2008年に金太郎相撲連盟を創設、現在は小田原相撲連盟として子どもたちに同校の土俵で稽古をつけているのも、このためだ。
年齢や国籍の枠も越えて「人対人」で接し、小学生から高校生まで皆が同じ土俵で共に汗を流すさまは、まるで一つの家族のよう。「ここにいる全員が、自分の息子だよ」(岸田監督)。孝行息子がいつの日か、地域を巣立って横綱へ…そんな夢も広がっている。
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