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エコチル調査 子どもが抱える課題解決に
環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(以下エコチル調査)」は、妊娠した女性をリクルートし、生まれた子を13歳まで追跡調査。環境物質などが子どもの成長・発達にもたらす影響について調査する大規模な国家プロジェクトだ。2011年に調査が始まり、最初に生まれた子どもは今年小学校を卒業する。当初の調査期間は13歳までだったが、協議により13歳以降も調査を継続することが決定。エコチル調査に関する多数の学術論文や報告が国内外にも発信されている。今回はそのうちの2つを紹介する。
13歳以降の調査継続に期待
横浜市立大学エコチル調査神奈川ユニットセンター長の伊藤秀一教授は、「神奈川県では、小田原市・大和市・横浜市金沢区でエコチル調査を実施している。調査は参加しているお子さんと保護者の協力により成立していることに改めて感謝いたします。13歳以降もエコチル調査が継続される決定がなされたことは、大変喜ばしい」とコメント。
「思春期から成人期は、身体的にも心理社会的にも大きな変化が訪れる。この時期をフォローアップすることになり、子どもたちが抱える様々な課題の解決につながることが期待される。今後もエコチル調査を末長く続けていくためには、地域の皆様に調査の価値を理解していただき、参加者への応援が重要であると感じている。私たちも調査で得られた成果を皆様へ還元できるよう努力したい」と話した。
調査で見えてきたこと【1】先天性心疾患発症とリスク因子 妊娠初期のビタミンAサプリ摂取控えて
横浜市立大学附属病院小児循環器科の河合駿助教と、同大学エコチル調査神奈川ユニットセンターの伊藤秀一センター長らの研究グループは、日本小児循環器学会と協同で妊娠期の女性の生活習慣と子どもの先天性心疾患発症の原因について調査した。
これまで日本では、母親の妊娠期の生活習慣と子どもの先天性心疾患発症の原因について十分な検討がされず、今回は日本人の大規模な母子コホート(集団を追跡する)調査で初めての研究結果となった。
研究は、全国で約10万組の親子のエコチル調査のデータをもとに、母子のペアを妊娠中から3歳まで追跡調査。その結果、子どもの先天性心疾患発症に関連する母親のリスク因子は、▽妊娠初期の母親のビタミンAサプリメント摂取で約5・8倍、▽バルプロ酸(抗てんかん剤)内服で約4・9倍、▽降圧薬内服で約3・8倍、▽母親の先天性心疾患既往歴で約3・4倍、▽母親の年齢40歳以上で約1・6倍だった。妊娠中の食事からの栄養摂取状況や社会的背景との関連は認められなかった。
今後は薬と疾患の研究も
河合医師は「先天性心疾患は妊娠の初期に発生するので、その時の環境を知るのはこれまで困難とされてきたが、エコチル調査のデータにより正確なリスク評価ができた」と話す。
また、「妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミンAサプリメントの摂取を控えること、てんかんや高血圧の人は担当医と薬の相談をする必要がある」と指摘。今後の展望について、「母子の健康を維持するために、疾患のリスクと治療薬のリスクそれぞれを評価する研究が必要と考える」と話した。
調査で見えてきたこと【2】子どもの肥満予防できるか 母親の妊娠前運動量で明確な差は出ず
世界中で増加傾向にある小児肥満。過去25年で2〜3倍に増加しているといわれている。小児肥満は2〜4歳で始まっており、思春期、成人へ継続することが多いため、早期に小児肥満を予防できないか研究する野田医師。今回は、妊娠前の母親の身体活動量に着目し、母親の運動量が多いほど、3歳の子どもの過体重や肥満が少なくなるかについて調査した。
エコチル調査の参加者のうち6万5245組を対象に、母親の妊娠前の身体活動量を低・中・高活動群の3群に分類。その結果、低活動群が48・7%、中活動群が32・7%、高活動群が18・6%で、それぞれの群で肥満の子どもの割合は9・4%、9・2%、10・4%だった。この調査では、妊娠前の母親の身体活動量と3歳の子どもの過体重や肥満との関連は認められなかった。
健康的な生活が大切
一方で、母親の身体活動量が高活動群の子どもは外遊びの時間が長く、デジタル機器の視聴時間が短い傾向がみられた。このことから「お母さんが妊娠前から健康的な生活を送ることが子どもの生活にも影響する可能性が考えられる」と話す。
また、今回の研究の判定にBMIを使用したが、筋肉量が多くてもBMIが高くなるため、「細かい体組成の指標で健康を評価してみたい」と野田医師。「妊娠前のお母さんが肥満だと子どもの肥満に強く影響することが今までの研究でわかっている。妊娠を考えている人たちには、お母さんが妊娠前に肥満でない状態であること、健康的な生活スタイルを確立することが大切と伝えたい」と話した。
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