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再び、サシバの地へ 沼代の棚田

社会

公開:2016年7月23日

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絶滅が危惧されるサシバ
絶滅が危惧されるサシバ

 「サシバ」という鳥をご存じだろうか。猛禽類の一種で、かつては沼代で子育てをする姿が観察できたが、環境の変化に伴い、10年程前を境にその姿を見ることができなくなった。現在、営巣に適した環境に戻し、もう一度サシバを呼ぼうという取り組みが懸命に続けられている。

 サシバは日本に夏鳥として渡来する中型の猛禽類で、環境省のレッドリストで「絶滅危惧II類」に指定されている。9月頃まで水田のある里山で、カエルやトカゲなどを捕食しながら、数羽の雛を孵(かえ)し、秋にまた南方の国へ帰ってゆく。森に囲まれた沼代の棚田は、県内数少ない営巣の一つとして、その姿が確認されていた。ところが、農家の高齢化と後継者不足に伴い、次第に棚田の整備が行き届かなくなり、10年程前から繁殖行動が途絶えてしまった。

「サシバを救え」広がる輪

 この窮状に、頼ウメ子さんを中心とする日本野鳥の会神奈川支部の会員たちが立ち上がり、『サシバプロジェクトチーム』を発足。沼代の自治会長を通して「棚田の雑草を刈らせてください」と地区内に呼びかけた。手つかずとはいえ、見ず知らずの他人が踏み入ってくることに難色を示す人もいた。それでもメンバーの必死の訴えに、勤めに出て既に耕作を止めていた一人の若者が手を挙げた。

 こうして下草刈りが始まった。チームは市の助成金を活用して草刈機を購入。作業を進めながら、頼さんが回覧板でサシバの窮状やプロジェクトの活動を報告するなど、地域との対話を図った。季節を問わず黙々と汗を流すチームの姿に、住民の態度も軟化。遠巻きに眺めていた地主たちも草刈りを申し込むようになった。

 プロジェクトは思わぬ所へ派生する。貴重な生き物の存在を知った地元の若者たちが、農業青年団を結成。「美しい棚田の復活」という点で共鳴し、葦ばかりだった地に徐々に水が張られ、穂が実るようになった。

会員高齢化で活動手探り

 それでも、人の手が入ったすぐそばから、新たな荒廃田が生まれていく”いたちごっこ”の状態が続く。現在、月2回の下草刈りと一部借り受けた田での稲作に取り組むが、会員の高齢化が進み、雑草との戦いには終わりが見えない。

 かつてのような棚田が復活した時、果たしてサシバは戻ってくるのだろうか。環境省がサシバ保護のガイドラインを示し、全国各地でも同様の活動は展開されているが、営巣に至っていないのが現状だという。「戻るかどうかわからない。でもその時が来ることを信じているんです」と頼さんは言う。サシバが沼代の空を舞う日まで、プロジェクトは続く。

下草刈りが進む
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