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連載【3】 現代に伝わった人形芝居―班目人形芝居の歴史― 足柄高校歴史研究部3年秋山七海さん

文化

公開:2024年2月10日

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班目人形芝居の衣装
班目人形芝居の衣装

 県立足柄高校3年の秋山七海さんは昨年11月25日、「全国高校生歴史フォーラム」で江戸時代から続く南足柄市の「班目人形芝居」の歴史をテーマに研究発表を行い、奈良県知事賞を獲得した。前回に引き続き、そのレポート全文(写真の一部含む)を紹介する。

第2章 班目人形芝居と岸の人形芝居(1)岸とのつながり

 ちょうど花之助が人形芝居を復活させた頃、班目と岸は、人形芝居において切っても切り離せない関係にあった。しかし、先行研究では、岸についてはほとんど触れてはいない。調査を進める中で昭和8年(1933)に班目が岸から人形を買い取ったという記録があった。実際に現在残されている班目人形の衣装の中にも、例えば「明治二巳年 岸 三尋木濱印」と所有者の名前がある。そして、明治元年の書簡が胴(どう)の裏に貼り付けられているものも発見した。このことから恐らく江戸時代の頃から岸でも班目と同様に人形芝居が行われていたと考えられる。

(2)山北町岸・向原での聞き取り調査から

 足柄座の方から聞き取り調査を行った際に、人形芝居を行っていた元舞台小屋が岸の神社にあり、まだ残っていると聞いた。先行研究にも現在そこには祭礼の時に使う山車をしまっていると書かれていたので、岸の調査を進めることにした。調査を進めるうちに先行研究ではどこの神社に元舞台小屋があるか記載されていなかったが、元舞台小屋は岸の八幡神社にあると分かった。そこで神社の下に住む鈴木収氏に話を伺った。鈴木氏が小学生の頃までは神社で盛大な芝居が行われていたようだ。全国的に活動をしている役者を八幡神社に呼び、祭りに合わせて芝居を行っていたという。ただし、鈴木氏の覚えていられる限りでは、人形芝居ではなく普通の役者が演じる芝居を行っていたそうだ。現在は山車を元舞台小屋に保管しており、その横には元舞台小屋を象徴する人の出入りが出来る扉があると知った。

 なお、私たちは、岸自治会の自治会長を務める野地泰次氏に自治会に人形芝居に関する資料が残っていないか聞き取りしたが、残念なことに資料は残っていなかった。そこで山北町文化財保護委員長である茂木哲夫氏の紹介で、向原に住む藤原巳鶴氏のお宅には、人形芝居で使ったと思しき古い羽織があると聞いた。しかし、藤原氏へ聞き取り調査をしたが、古い羽織は人形に着せるものではなさそうだと分かった。羽織には「林子連中」のような文字があるが、人形芝居で使ったものではなく役者が行う地芝居のものだと思われる。このことから人形芝居は向原に広まっていた確証はないと考えた。

(3)岸の人形遣いの子孫

 班目人形芝居の衣裳を調査した際、「為次郎」や「相原冨次郎」、「武井松五郎」、「牧田重太郎」、「鈴木庫吉」、「府川尤太郎」など岸の人名が多く残されていることが判明した。そこで、人形芝居に関する調査を岸で2日に分けて行った。1日目は山北町岸の宿(しゅく)地区を中心に調査をしたが、有力な情報は得られなかった。2日目は湯坂(ゆざく)地区を中心に調査をした。こちらも関係ありそうなお宅に戸別訪問をしたが有力な情報は得られなかった。しかし、最後の最後に相原氏のお墓を調査する中で「相原冨次郎」の文字を発見し、さらにお墓の掃除に来ていた冨次郎の子孫の正氏にお話を聞くことができた。正氏の話によると冨次郎は明治期前後を生きた人物で80歳まで生きたという。当時では、かなり長生きだったことが分かった。そして、「自分の先祖が人形芝居をしていたなど知らなくてビックリしました」と語ってくれた。また、後日、三尋木(みぞろぎ)氏の子孫である福岡初江氏から情報提供を頂いた。その話では、三尋木氏はこの近辺に2〜3軒しかなく、明治時代の祖先に「三尋木濱次郎」という人物がいるという。そのため、先述した「三尋木濱印」と記載のあった胴は、おそらく三尋木濱次郎が所持していたものだと考えられる。このように岸では、現在ほとんど人形芝居に関する伝承は残されていなかったが、当時人形芝居を行っていたと思われる人物の子孫が何名かいることが分かった。

     連載【4】に続く

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