手製の布ぞうりが中米コスタリカの大使館内に展示された 前野 和子さん 真鶴町岩在住 77歳
扱うどれもが、ただひとつ
○…布ぞうりは同じものが二つとない。友人にもらった着物を材料に、柄や色を組み合わせて作る。10年前、湯河原の教室で教えてもらい、自己流で履き心地のよい丈夫なぞうりを仕上げるようになった。昨年海外に渡る知人にお土産として持たせたところ、縁あってコスタリカの大使館に日本文化紹介の一環で収蔵されたという。「運河のある国かな」。彼方の国でまだピンとこない様子。昔から布を使ったアートフラワー(造花)が特技で友人とともに町内の金婚式の夫婦にプレゼントしている。ネルやサテンなど素材を変えて染め、どの花も同一には仕上げない。「自然と一緒で一輪ずつ違っていい」。
○…故郷は福島県月舘町(現・伊達市)。小学校時代の上履きは藁ぞうりで赤い布を編みこむのが当時のおしゃれだった。「祖父のぞうり作りに憧れて自分で作ろうとしたけど、なかなか形にできなくてね」。その後「手に職を」と理容店に住み込みで弟子入り。食事の用意や洗濯もこなし、きれいに畳めなければ師匠のカミナリが落ちた。幾度も洗髪して荒れた両手で免許を掴んだのが今から約半世紀前。姉が働く真鶴へ転居し、役場近くに小さな店を開いた。
○…転居したての頃に見た三ッ石の絶景が忘れられない。最初はなじめず近隣から『旅の人』と呼ばれる事もあった。夫と長男も同じ理容師。時々自分の髪を切ってもらい、最近の技術やトレンドを感じる。時代が変わっても顔剃りのこだわりは変わらない。お客さんの肌質も、刃の角度も力の入れ具合も千差万別だ。愛用の剃刀を研いでくれるのは夫の宣久さん。同郷出身で母校も生年月日までもが同じで「田舎言葉」が通じるよき同僚。おしどり夫婦の食卓には郷土料理「イカニンジン」がよく並ぶ。
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