芦ノ湖夏まつりウィークで九頭龍舞を披露し続ける 石井 寿美子さん 箱根町箱根在住 57歳
力を呼び込み、踏ん張る
○…湖畔を盛り上げる夏まつりウィークで、今年も全力で見せた九頭龍舞。夕闇に映える般若の面は暴れ龍を表し、万巻上人の祈りによって湖の神となるまでを全身全霊で物語る。仮面を取ると、キラリとした瞳と満面の笑顔。疲れの2文字は全く無縁の表情に、取り囲む観客がため息交じりに「凄い」「スミちゃん若いねぇ」。例年通りの光景である。元箱根の「スミちゃん」といえば365日晴天のようなテンションの高さで有名だ。箱根神社の延年の舞や小学校を巡ってソーラン踊りの指導もこなす。一帯どこからその力が湧いてくるのか。
〇…関所近くの生まれ育ちだったが一帯は観光地。小さい頃は木登りやホテルの敷地に入って遊ぶ程度で、家には休みなく働く両親がいた。実家はホテルや旅館御用達の鮮魚店で、自分で3代目。父・正男さんとの市場通いが懐かしい。マグロを見定めつつ「魚を売るだけが商売じゃない。旅館に芸者が足りなければ太鼓を打て」。その商人魂を受け継ぐように、30年ほど前に魚屋の隣に海の幸を主役にしたレストランを立ち上げた。なぜ山で魚料理なのかという声もあったが刺身の美味しさに感激した別荘の住人たちも店に来るようになった。キレのいい舞は5歳から続けている日舞のおかげ。「師匠から同じ所作を何度もやらされて、途中でやめたら何も残らないってね。先生に感謝ですよ」。西湘高校の頃は東京の家元まで通い、「岩井寿松榮」という芸名もある。
〇…祭りで踊り始めて8年。職場の一角にも大きな鏡があり、時おり自分の動きをチェックする。続ける理由は祭りを盛り上げるため、だけではない。「これは奉納の舞なんです。震災の時もそうだった。今の箱根を見て。お客さんは少ないけど今が我慢のし時じゃない。大雨で観客がいなくても私は踊る。九頭龍の神様もみんなを見守っているのよ」。例年になく静かな夏に爽やかな喝が入った。
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