昭和7年(1932年)創業の下駄や雪駄などを専門に扱う履物店「武本はきもの店」(秦野市本町1の10の17)が、県道705号の拡幅工事に伴い5月31日(火)に閉店する。市内からまた一つ、老舗の灯が消えることになる。
武本はきもの店は靴の販売だけでなく、創業当時から下駄や雪駄の鼻緒のすげ替え(取付)や調整を行っている。上宿にある靴のタケモトに生まれた初代が分家し開いた店で、3代目の武正隆さんが後を継いでいる。
まだ下駄が主流だった頃は市内の客が主だったが、履物が靴に移り変わり車が普及し、大型店が増えるなど時代の変遷で市内に数多くあった下駄などを取り扱う店は姿を消した。今では近隣に同様の店はなく、愛好家や武芸者、箱根の芸者や仲居など市外からも多くの人が同店に訪れている。中には花魁道中のイベントで使う花魁用の下駄の依頼もあったという。
昭和の時代
「少し寂しい気持ちはある」と話すのは、正隆さんの母である武節子さん。節子さんが嫁いできた時、店は建て直した現在の建物だった。まだ日本専売公社があり、時期になると本町四ツ角付近が非常に賑わっていた時代。年末になると履物が全て売れてしまい、元旦から新しい履物を作るというのが風物詩だった。
「他にも住み込みで働く人がいたり、遠方の問屋さんが泊まったり、親戚が手伝いに来てくれたり、その人たちと一緒に食事をしたり。とにかく賑やかだった」と節子さんは当時を懐かしむ。祭りでは神輿の休憩場所だったため、「コロナ禍でお祭りがないまま終わってしまうのが残念」と続けた。
閉店惜しむ声
学生時代から手伝い、自然と仕事を覚えたという正隆さんは大学卒業後から家業に入り、この道1本でやってきた。量販店のものより長持ちし、ネット通販と違い自分の好みに合わせた調整や修理に応じてくれる同店の閉店に、常連客から「これからどこで買えばいいのか」という声が寄せられている。また、閉店を聞きつけ、買い物だけでなく節子さんの顔を見に来る人もいるという。
「すでにご依頼もあるので、個人で対応できる範囲で調整や修理には応じたい」と話す正隆さん。「色々なお客さんがいて、交流できたのが面白かった。この仕事を選んで良かったです」と笑顔で語った。
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