俳優の故・夏木陽介さんが1988年に米国から購入して以来、ほぼ動かされることなく保管・展示されていた1933年製の米国車「パッカードエイト」に12月、”命”が吹き込まれた。手がけたのは秦野市堀西のKCR JAPAN、和田康(こう)さん(50)だ。
馬車のようなフォルムに鳥のエンブレム、観音開きのドア。モノクロ映画で、後部座席に貴婦人を乗せて優雅に走っていそうな高級車が、パッカードエイトだ。
クラシックカーは、コンピュータで制御される現代の自動車と大きく異なる。例えば今回のパッカードエイトはブレーキが自転車のようにワイヤー式で、エンジンも「フラットヘッドサイドバルブ」の直列8気筒(5200cc)と今では見られないもの。古い自動車を修理できる技術者は年々減っているという。
KCR JAPANは、米国カリフォルニア州でクラシックカーの修理やレストア(新車に近い状態まで復元させること)を請け負っていた和田さんと、その顧客だった山根圭介さん(62・ジェネラルマネージャー)が、和田さんの故郷・秦野で今年6月に始めた。これまでも走行困難なクルマの修理を請け負ってきた和田さん。「車のお医者さんっていうより、”死んでしまった車を生き返らせる”フランケンシュタイン博士」と笑顔で自分の仕事を称する。
28年眠っていた車を走らせる
「走れる状態にしてほしい」。現在のオーナーから同社へ依頼が来たのは今年10月だった。夏木さんのプライベートコレクションとして輸入され、その後、博物館などに置かれていた。28年間動かしていないエンジンを動かすのは至難の業で、労力がかかる。「腕があっても引き受ける技術者は少ない。康ちゃんくらいだ」と山根さんはいう。
「古い車だからこそ、新鮮でおもしろい」と和田さん。10月25日、群馬県からトラックで運ばれてきたパッカードエイトを眺めながら、不安と共に、未知への好奇心に駆り立てられていた。
入手できない部品や道具は手作り
状況を確認すると、長年動かしていなかったためエンジンは固着して回らなかった。無理に動かせば壊れてしまう。当時の部品や道具は手に入らないため、ボルトを回すためのレンチなどを自作し、慎重に点検と整備を繰り返していった。
修理を始めて1カ月後、オーナーが同社を訪れ、「正直不安もあったけど、腹をくくったよ」と和田さん。エンジンは煙を出しながら少しずつ回り始め、「いい音してるね」とオーナーも喜んでくれた。
その後も燃料タンクの洗浄や車体の点検などが続けられ、12月にいざ試運転へ。仮ナンバーを付け、同社の前から水無川、県立秦野戸川公園周辺を通り、国道246号線を走行した。「操作は丁寧にやらないといけないけど、しっかり走ってくれた」と和田さん。後日、川崎市内まで約50Kmのテスト走行もクリアした。「廃車にされず残っていて良かった。当時の物づくりの質の良さにも改めて感動した」という。
今後は米国での販売も視野に同社で委託販売される。山根さんは「ここにあるうちは、興味のある方や子どもたちにも気軽に見てもらえたらと思います」と話している。
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