障がい者による自主活動のエコキャップ活動から
アップサイクル製品「エコマグネット」が誕生
「認定特定非営利活動法人 小田原なぎさ会(以下、なぎさ会と記載)」は、障がいのある方が誇りある社会の一員として自立した生活を送ることを支援する活動を行っています。そして、なぎさ会の施設利用者(障がい者)が製作する「エコマグネット」は、令和5年度の「かながわみんなのSDGs賞」を受賞しました。
使用済みペットボトルキャップをそのまま活用して作られるエコマグネットが生まれるまでの紆余曲折を小田原なぎさ会理事長の乾恒雄さんに伺いました。
エコキャップ活動を始めたのは通所者のため
なぎさ会は、2015年から施設利用者の自主活動としてエコキャップ活動を始めました。きっかけは、産業カウンセラーの資格を持つ乾さんが、施設に通う障がい者の方の悩み相談を受けていたとき、とてもネガティブな感情を持つ相談者が多いことに気づいたからです。このような感情になるのは彼らに成功体験の機会が少なく、達成感を味わった経験が少ないからではないかと考え、始めたのがエコキャップ活動でした。
エコキャップ活動とは、ペットボトルキャップを集めて破砕などの工程を経て、リサイクルに貢献するSDGs活動です。
「ペットボトルキャップは形があるでしょ。100個、1000個と集まると活動した成果が物理的に見える。これだけ溜まったよ、とか。もうこの部屋いっぱいになって、廊下にあふれているよ、とか。具体的にイメージできるように活動成果を施設利用者へ伝えます。それがちょっとした達成感につながる可能性があるんじゃないかなと思って始めました」
このエコキャップ活動は、なぎさ会における施設利用者の唯一の自主活動として継続的に取り組まれています。活動に賛同する輪はなぎさ会の外にも広がり、キャップの収集等で地域の方々にも支えられています。結果、2015年からこれまでに128万個を超える収集量を達成しました。
ペットボトルのキャップと一口に言っても、リサイクル企業での扱いでは、いくつかのグレートがあることをご存じでしょうか。集まったキャップの中には、材質の違うものや、時にはアルミのキャップや金属が入っていることがあります。違う材質のものや混入物を仕分けるなど、ひと手間をかけることで、その価値が上がるようです。ある時、この話を利用者にしたところ、「それだったら一級品だけでやろう」と、自発的に週1回、キャップを選別しているそうです。その丁寧な分別から、なぎさ会で集めたキャップのグレードは最高レベルとしてリサイクルされています。
コロナ禍から生まれた自主製品のエコマグネット
エコキャップ活動は、通所する障がい者の成功体験として、大きな成果をあげていました。そんな中、2020年に世界規模のコロナ禍が起こります。政府が緊急事態宣言を発する中、なぎさ会は、大きな葛藤がありながらも活動を継続することを決めます。利用者の居場所を確保し、せっかく形成されてきた彼らの生活リズムを変えないようにしたい、という利用者ファーストの想いからでした。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、それまで来ていた企業等からの受託作業が激減します。受託作業の一つはタオル折り。タオルを所定の形に折ってビニール袋に入れる作業です。しかしコロナで観光業界がダメージを受け、委託が全くなくなりました。他にも広告チラシ折り等の委託もゼロになります。他者に依存する受託作業の弱さを思い知ったそうです。
この緊急事態に乾さんが考えたのは、成果を上げていたエコキャップ活動で手元に大量にあったペットボトルキャップとホワイトボードに貼っていたマグネットを活用して自主製品を作ることでした。「一瞬のひらめきでしたね」と乾さんは言います。そして誕生したのが「エコマグネット」です。
「エコキャップ活動がなければ、発想としてエコマグネットは生まれていなかったと思います。それに、コロナ禍がなければ自主製品を生み出す必要もなかったでしょう。危機が来たからこそ、逆にエコマグネットが生まれたのだと思います」
こうしてコロナ禍真っ只中の2020年7月に誕生したエコマグネットは、2020年の製作数は数百個でした。それが2023年12月には累計で7300個と大きく増えていきます。障がい福祉の普及啓発活動での販売とともに学校や企業、団体からのまとまった数のオーダーが支えてくれているそうです。
一般市場への販売を視野に
一定の成果を上げたエコマグネット製作ですが、今後の展開として考えているのは、一般市場への販売です。これまでは障がい福祉のイベント会場等での販売が主でした。障がい福祉の普及啓発が目的です。しかし、現在は北条五代キャラクターシリーズや小田原市の観光PRキャラクター「梅丸」など、一般向けの製品もあります。これらを地元の観光地などで販売することを目指しています。
ただ乾さんの目的は販売促進だけではありません。どの活動も障がい福祉の普及とその持続可能が最初にあります。乾さんは「エコキャップ活動も障がい者がポジティブになってくれる可能性があると思ってやってきました。エコマグネットも、自分たちの作業を確保するところから始めたものです」と振り返ります。利用者の自信につなげたいと考えた活動やコロナ禍で必要に迫られ始めたことが、結果として「リサイクルやアップサイクル製品になっていました」と微笑みます。
乾さんは、「SDGsで大事なことは、人々の意識を変えること。意識を変えないと行動が変わらない。行動が変わればSDGsや共生社会は実現していくと思いますよ」と目を細めました。
団体概要
- 認定特定非営利活動法人 小田原なぎさ会
- 設 立 2006年
- 所在地 小田原市
事業内容
障がいを抱えている人々の自立支援に取組んでいる。主な事業は、施設設置・運営事業、普及・啓発事業、関係先との連携事業。2015年、エコキャップ活動開始。2020年には初めての自主製品「エコマグネット」を創出し製作開始。
クラフトビールの副産物を利用し
アップサイクルに寄与する紙製品を開発
クラフトビールを製造するときに副産物として出るモルト粕を紙の原料として利用したクラフトビールペーパー事業を展開しているのが、株式会社kitafukuです。モルト粕を紙として再利用しアップサイクルする取組みは、令和5年度「かながわみんなのSDGs」賞を受賞しました。
社名の由来は、kitafukuを夫婦で経営する福岡県出身の松坂匠記さんと北海道出身の良美さんが、それぞれの地元から1字をとったもの。もともとシステムエンジニアだった2人が、地元も大切にしながら、いま住んでいる横浜の地域課題を解決することをビジョンとして掲げ、IoTデバイスの開発、地域コミュニティの立ち上げなどを通じて貢献する事業を模索してきました。
フードロスへの着目から新素材開発
そこで行き当たったのが、神奈川県内に多く存在するクラフトビールのブルワリーが、ビールを製造するときに発生するモルト粕の使い道に困っていることでした。
「フードロスの廃棄という問題に着目して横浜ビールさんの直営レストランにヒアリングしたとき、ビール1回の仕込みで200キロのモルト粕が出て、廃棄に困っている話を聞いたのがクラフトビールペーパーの開発のきっかけです」と匠記さんは振り返ります。
特に近くに農地の少ない横浜では、モルト粕を堆肥として利用するのも難しく、焼却処分している例が多かったそうです。
匠記さんは、紙に米を混ぜるという研究を手がけていた前職の同僚がいたことから、紙にモルト粕を混ぜて紙として利用することを思い立ち、一緒に事業ができないか、と持ち掛けました。紙の製造開発・卸事業を手掛ける株式会社ペーパルとの共同で開発をスタート。
モルト粕は栄養価が高く発酵しやすいため乾燥させるのに苦労したり、印刷時に印刷機の中にモルト粕が落ちないかという印刷所の懸念に対応したり、試行錯誤を重ねて6%という配合率を導き出し、2021年6月23日から販売を開始しました。
クラフトビールペーパーはところどころにモルト粕の粒が見受けられ、独特の風合いをもっています。
「NUMBER NINE BREWERYさんにメニュー表やコースターなどで使ってもらえたのがありがたかったですね。摘果される青みかんでIPAのクラフトビールをつくるなど、アップサイクルに積極的で、ギフトボックスも一緒にやりましょうと、使い方の提案を受けて商品のラインナップが増えていきました」(匠記さん)
クラフトビールのブルワリーは横のつながりが強く、クラフトビールペーパーもブルワリーからの口コミで広がっていったそうです。30~40社ほどのブルワリーとのお付き合いができ、うち8社からモルト粕の回収実績があります。
また、これまでかかわってきた地域コミュニティのつながりも、ビジネスの展開へ繋がってきました。
良品計画横浜事業部と横浜ビールとの共同で開発した、クラフトビールペーパーをパッケージに使った地域限定のレトルト食品「ハマクロカレー」は、初期ロットが2日で売り切れるほど好評でした。
用途を広げれば需要も増える
モルト粕を集めるのには苦労はない状況のようですが、紙をつくってもそれが利用されないことにはSDGsは達成できません。
栄養価の高いモルト粕を食材として利用することは可能です。ただし、量的には微々たるもの。量を消費できるものにはならず、採算のとれる形にするのは難しいようです。
良美さんは「モルトを引き取ってほしいという声はたくさんありますが、すべて紙にするととんでもない量になります。クラフトビールペーパー以外の利用法も考えていきたい」と課題をあげます。「たとえばリユースカップのような別のアップサイクル製品にして使ってもらうなど。そうした様々な活用方法が選べるマッチングプラットフォームをつくりたい」と思案します。
クラフトビールペーパーに込めた思いを知ってもらい、需要喚起につなげたいということから、子ども向けSDGs普及イベントなどでも活用されています。
クラフトビールペーパーでファイルケースを作成し、子どもに絵を描いてもらうワークショップなども好評で、ビールを飲めない年齢層の関心も高いようです。
世界中からもその動きは注目されています。すでに19か国からの問合せがあり、フィンランドの製紙会社と組んでの事業化のほか、オランダ、ドイツへの進出も計画しているといいます。国内でもそれぞれの地元である北海道と福岡のブルワリーとそれぞれの地域の製紙会社や印刷会社をマッチングさせての展開などを進めています。
「なかなか採算にはのらないようですが、食材としてのモルト粕を研究する人たちもいらっしゃいます。それだけではたいした量でなくとも、SDGsでよく言われる、1人の100歩より100人の1歩、みんなで足し算をして解決できればいい。その解決策のひとつとしてクラフトビールペーパーがお役に立てればよいと思っています」(匠記さん)
会社概要
- 株式会社kitafuku
- 設 立 2019年
- 所在地 横浜市西区
事業内容
IoTデバイス製作/クラフトビールのモルト粕を活用した再生紙事業/コミュニティ「きたふくプロジェクト」運営/SES(システムエンジニアリングサービス)
心臓リハビリテーション
目指すのは回復とその先にある「社会貢献の心」
前身から100年以上の歴史を持ち、総合病院として市民の健康を長らく支えてきた横須賀市立うわまち病院。利用者と地域に寄り添う姿勢を貫く同院では、より広域的・長期的な視点からSDGsに対する取り組みも積極的に行っています。心臓病患者に向けたハイキングプログラムもその一環です。患者やその家族、医師、看護師などが参加して、心身の健康を促すとともに、ゴール地点では清掃活動も実施。斬新な手法で心臓リハビリテーションの効果を向上させるとともに地域貢献も同時に行う取り組みが評価され、令和5年度「かながわみんなのSDGs賞」を県内の医療機関で初めて受賞しました。
「心臓リハビリテーションハイキング」と名付けられたこの取り組み。「患者と担当職員」だけではなく、患者家族、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、事務職員、院長など多職種のスタッフが参加するのが特徴です。同行する職員が多いため安全にハイキングを行うことができるほか、患者や家族が普段の体調や食事方法について、それぞれの専門家に尋ねることができるのが利点です。これまでヴェルニー公園やくりはま花の国といった市内の観光名所などをコースに取り込み、参加者が楽しめることを第一に行程を考案してきました。
ハイキングを「楽しみ」普段のリハビリをより主体的に
廃棄物を出すとき、事業者には「排出事業者責任」が課されています。
前身の国立横須賀病院から横須賀市が委譲を受け、市立病院として再スタートを切った2002年から院長を務める沼田裕一医師。専門は循環器内科(冠動脈の血管内治療)で、心臓病の治療・リハビリについて長年一線で取り組んできました。
その中で感じていたのが、患者のリハビリに対するモチベーション維持の難しさ。心臓病患者の行うリハビリテーションは単純な動作を繰り返すものが多く、いくら治療に必要な取り組みとはいえ、患者の主体性が徐々に削がれてしまうことに課題意識を持っていました。
そこで2004年から取り入れたのが「心臓リハビリテーションハイキング」。約20年、毎年春と秋の2回の頻度で行われ、各回30~40人ほどが参加しています。心臓への負荷が少なく、楽しみながら運動を行うことができるので、参加者からは「患者同士の交流が嬉しい」「みんなとなら長距離も歩き続けられる」と好評とのことです。しかし、沼田院長は「ハイキング自体がリハビリとして大きな効果を持つわけではない」と話します。これはどういうことでしょうか?
多くの人にとって散歩やウォーキングは、日常的に楽しめる簡易なアクティビティですが、心臓病患者にとっては決して楽な運動ではありません。イベント開始前には問診や血圧測定などのメディカルチェックを行い、当日運動できる体調であるかを確認しています。よって、ハイキングに参加するには日々のリハビリにきちんと取り組み、長時間の歩行が行えるまでの状態に体の機能を向上させる必要があるのです。この取り組みの真の意図はそこにあり、お楽しみ行事であるリハビリテーションハイキングを定期的に開催することで、患者が普段行うリハビリを継続させ、早期の社会復帰を促しています。
心臓リハビリテーションハイキングでは、ゴール地点の公園・広場の清掃活動にも取り組んでいます。これは、SDGsの「住み続けられる街づくりを」の観点からも大変重要な試みですが、発案には沼田院長の「回復し、社会に貢献するまでがリハビリテーション」という信念が大きく影響しました。
Rehabilitationが「社会復帰」、「名誉回復」などと訳されるように、同院の心臓リハビリテーションの最終的な目標は、病状の回復だけではなく、患者が無事社会に復帰し、名誉を回復して、"復権”を果たすことに定めています。心臓病の克服で救われた命。残りの時間を自分のためだけでなく、人や社会のためにどのように活用するかという視点を持つことが院長の望む”元”患者の姿です。
「同じ苦しみ」だからこそ出来る支援
患者同士や元患者が交流し、生きる活力を見出す「心臓病と闘う会」は院長らを中心に2016年設立。累計会員数は267人を数えます。先述のハイキングのほかリハビリテーションゴルフや講演会なども実施している活発なコミュニティです。
復権には「地域活動に励む」「ボランティア活動に参加する」など様々な例が挙げられますが、より身近な復権として院長が挙げるのは「同じ病気を抱える人のために自分が役立ちたいと思うこと」。心臓病を克服した後も、自分も経験したからこそ分かる苦しみに寄り添うことで、患者にとっては大きな力になるそうです。
17のゴールすべてに取り組む
同院では心臓リハビリテーションのほか、SDGsに定められた17のゴールすべてに医療ならではの観点から取り組んでいます。患者に外国人の多い横須賀の特徴を踏まえ、英語や中国語など8か国語に対応した電話医療通訳メディフォンの導入や、子育てしながら働く職員に向けた院内保育所、子どもの看護休暇の整備など、各部署や委員会が主体となって目標達成を目指しています。(取り組みの詳細は
こちら)
2025年春には現在の病院機能を移転し「横須賀市立総合医療センター」として、新たなスタートを切ることが決まっている同院。「回復のその先」までを見据えた心臓リハビリテーションの理念と、SDGsへの積極的な取り組みはそのまま引き継がれていきます。
病院概要
- 横須賀市立うわまち病院(管理運営:公益社団法人地域医療振興協会)
- 設 立 2002年
- 所在地 横須賀市
事業内容
前身から100年以上の歴史を持つ市立病院。三浦半島の東部、紺碧の大洋に接する横須賀市の中央に立地。救命救急センター・地域医療支援病院として、市民が安心して暮らすことのできる高度な医療を提供している。市内で移転建替えを予定しており、2025年3月1日に「横須賀市立総合医療センター」となる予定。
食品廃棄物を電気と肥料にリサイクル
排出事業者に電気と肥料でできた農作物を還元
メタン発酵技術によるバイオガス発電プラントの建設や廃棄物処理技術を持つJFEエンジニアリンググループと、食品廃棄物を自ら資源循環し、再生利用に取り組むJR東日本グループが共同で設立した「株式会社Jバイオフードリサイクル(以下、Jバイオ)」は、食品廃棄物から電気と肥料を創り出し、その電気と、肥料でできた農作物を排出事業者に還元する『ダブルリサイクルループ』を実現しています。外食産業や食品卸業、食品小売業などからでる食品廃棄物の再生利用実施率は、食品製造業に比べると低く、その多くは焼却処分を余儀なくされていました。
容器包装プラ等の異物が混在する食品廃棄物でも受け入れ可能に
課題となったのは「異物混入」。スーパー、コンビニ、レストラン等から出る食品廃棄物は、容器や楊枝、箸などの異物が多く混入し、分別の手間がかかるため、飼料化・肥料化には不向きとされてきました。Jバイオでは、親会社が長年培った廃棄物管理・処理やプラント建設のノウハウを生かし、受け入れた食品廃棄物を破砕、混入物を適切に除去できる仕組みを確立。更に、メタン発酵処理の操業ノウハウを蓄積したことにより、多くの食品廃棄物をメタン発酵し、バイオガスを生み出すことが可能になりました。生成したバイオガスはガスエンジン発電設備で電力に転換され、JFEエンジニアリングのグループ会社である小売電気事業者を通じて、食品廃棄物を出した食品工場や飲食店、小売店などに還元されます。廃棄物の電力転換分だけ電気料金の割引還元が受けられる「創電割®」というサービスを展開したことで、食品廃棄物から電気へリサイクルし、排出事業者に再び還元する「電力リサイクルループ」の仕組みが確立されました。
「創電割®」を導入した富士シティオ株式会社(神奈川県横浜市、代表取締役社長:川本大作)が神奈川県を中心に展開するスーパーマーケット「Fuji」。店舗等で排出された食品廃棄物をメタン発酵により電力に変換し、横浜市内を中心とした「Fuji」等19店舗に供給しています(電力リサイクルループ)。今後、Jバイオが生産する発酵残渣肥料を使用している藤沢市内の農家「やさいの秋葉」とも連携し、生産した農作物を店舗で取り扱い農業リサイクルループにも取り組む予定です。この取り組みが実現すると、スーパーマーケット「Fuji」を中心とする神奈川県初のダブルリサイクルループが完成します。
「大量の食品廃棄物をそのまま受け入れ処理できるようになったことが、安定した再生エネルギーの供給という意味合いでも大きなポイントとなりました。今では1日に約80tの固形廃棄物を受け入れています」(大場さん)
Jバイオの出資会社であるJR東日本グループでは、エキナカ・駅ビル等から排出される食品廃棄物を再生可能エネルギーとしてリサイクルできる仕組みを構築し、同グループ内における食品リサイクル率向上に大きく貢献する結果となりました。Jバイオでは、現在、一般家庭の約5,700世帯分の電気使用量にあたる年間最大1,700kWhの再生可能エネルギーを創出しています。
発酵残渣にも着目「余すことなく再利用」へ
食品廃棄物をメタン発酵させる際、発酵槽には発酵残渣が残ります。Jバイオでは当初、この「発酵残渣」を焼却処理していたそうですが、これを肥料として活用するプロジェクトが始動。2022年には肥料登録を実現しました。処理の過程で「液肥(はまのしずく)」と「固形肥料(はまのみのり)」に分けられた肥料は、提携農家などに提供され、トウモロコシや水稲などの肥料として役立てられています。この肥料を使用してできた農作物を、再び排出事業者に還元する仕組み=「農業リサイクルループ」が確立できたことで、食品廃棄物を電気と肥料としてリサイクル・循環させる「ダブルリサイクルループ」が完成しました。
「農業リサイクルループは、『農家が排出事業者の店舗に農作物を販売する』、『農家が農作物を納入している店舗とJバイオが食品廃棄物の処分委託契約を締結する』など、新たな経済効果も生み出しています」(大場さん)
Jバイオでは、この取り組みを促進させていくため、今後も協力農家の開拓などに力を入れていくそうです。食品廃棄物のリサイクルを通じて、様々な事業者がメリットを感じられる仕組みづくりを確立していくことで、更なる環境負荷低減、循環型社会の実現をめざしています。
会社概要
- 株式会社Jバイオフードリサイクル
- 設 立 2016年
- 所在地 神奈川県横浜市鶴見区
マニフェスト電子化推進で
資源循環型社会の実現をサポート
「複雑な産業廃棄物の管理を誰でも簡単に!」をテーマとした取り組みで、かながわみんなのSDGs「神奈川県中小企業診断協会賞を受賞したのが、横浜市中区のリンクイノベーションズ株式会社です。
産業廃棄物処理業に長く携わった経験をもとに、産業廃棄物処理に関するシステムの開発を進める会社としてスタートし、あわせて産業廃棄物を専門とした環境経営コンサルティング業も手がけています。後藤泰子代表取締役をはじめ、女性が多く活躍している職場です。
求められるペーパーレスへの対応
産業廃棄物を出すとき、事業者には「排出事業者責任」が課されています。
産業廃棄物を排出するときには、法律に基づき決められた手順で適正に処理しなければなりません。その処理で求められるのが「産業廃棄物管理票」(マニフェスト)です。従来の紙のマニフェストは、裏がカーボンの複写式になっており、廃棄物を排出するときは廃棄物と一緒に収集運搬業者に渡します。作成したマニフェストの1枚目は作成者が保管し、廃棄を任された業者が処理の段階で1枚ずつはがしていって、すべての処理が終われば最後のE票が作成者のもとに戻ってきて、適正に最終処分まで行われたことが証明されます。また、マニフェストは5年間の保管義務があります。
ところが、紙の場合は現場で紛失したり、悪質な業者による不法投棄目的で内容を書き換えるなどという問題がありました。
また、ペーパーレスの流れのなかで、昨今はマニフェストの「電子化」が推奨されるようになりました。
画面に従えば法令遵守に
リンクイノベーションズが開発した『電子マニフェスト先生』は、マニフェストの登録・管理・集計をクラウド内で完結させるシステムで、煩雑だったり正確性が担保されなかったりといった紙マニフェストの問題点を解決する画期的なソリューションです。
『誰でも手軽に使えるような設計がされているのが特徴です。トップ画面には「産業廃棄物」「建設産業廃棄物」「一般廃棄物」といったボタンが並んでいます。処理する廃棄物を選択し、画面の指示に従って入力していくと、何をどの処理業者がどのように処理していくのか、流れに沿って登録ができる形になっています。
必須事項はセルをピンクの色付きで表示して記入漏れを防ぎます。導入後は、まず初めに契約書の内容を登録します。入力時に契約書の内容も登録する必要があるので、異なる処理をしようとすると先に進めないようになっており、指示に従えば法律を遵守したマニフェストが作成できます。
運搬業者や処理業者の登録許可番号や許可期限なども登録するため、委託先の許可期限が切れそうなときはアラートで表示するなど、適正処理に欠かせないチェックができるのも特色です。
「産業廃棄物が難しいのは、種類が20種あって、それがどれに該当するのか判断をすることがとてもむずかしい。たとえばタイヤって“ゴムくず”として廃棄するんじゃないかと考えてしまうんですけど、合成ゴムなので廃プラスチック類に該当するんです。ほかの産業廃棄物では行政によって何に該当するのか見解が違うこともあります。廃棄の流れも複雑で、積替保管があったり、経由地があったりと、そうしたものをどうわかりやすく表示するかは特に苦労したところです」(執行役員システム事業部部長・小出花帆さん)
可視化でリサイクルへの関心を高める
2019年から開発を開始、2022年の発売から、導入企業はおよそ100社を超えるようになりました。
マニフェストの紛失や報告の抜けがなくなった、リサイクル量の自動集計ができるのが役立ったなど、導入先からも高評価を受けています。
マニフェストの電子化は現場の効率化に寄与するとともに、流れが可視化されると、自社が出した廃棄物がどのくらいリサイクルされるのかとか、どうすれば削減できるのかとか、興味をもって考えてもらえるようになります。そのことが資源循環型社会の形成や環境保護につながるといいます。
自治体や業界の古い体質の企業では「まだ紙でいいじゃない」と電子化に難色を示すところもまだまだあるようです。
一方で、大阪府のように、電子マニフェストを必須とするような自治体も出てきています。
「行政でも進んでいるとこととそうでないところがありますが、一度導入すると、人事異動などの際、引継ぎ業務も簡単になります。今後も多くの方々に電子マニフェスト管理や、環境管理にお役に立てる様、私たちもがんばって電子マニフェスト先生を普及していかなければいけないと思っています」(後藤代表)
会社概要
- リンクイノベーションズ株式会社
- 設 立 2023年
- 所在地 神奈川県横浜市中区
事業内容
産業廃棄物コンサルティング/コンピューター及びこれらに関するシステム/ソフトウェアの開発、制作、販売、賃貸、導入指導、保守 等