>7月22日~28日は「ともに生きる社会かながわ推進週間」です。|ともに生きる社会の実現をめざし、地域で様々な取り組みを行っている県内10の団体・個人の活動を紹介します。
かなえたい―。
誰もが主役になる社会
7月22日~28日は
「ともに生きる社会かながわ推進週間」
です。
- 一 私たちは、あたたかい心をもって、すべての人のいのちを大切にします
- 一 私たちは、誰もがその人らしく暮らすことのできる地域社会を実現します
- 一 私たちは、障がい者の社会への参加を妨げるあらゆる壁、いかなる偏見や差別も排除します
- 一 私たちは、この憲章の実現に向けて、県民総ぐるみで取り組みます
横浜
LOVEフォトプロジェクト
後藤京子さん
障がいのある息子を育てながら、障がい児とその家族を撮影するLOVEフォトプロジェクトを立ち上げる。
横浜
NPO法人ぷかぷか
共生社会をめざし、障がい者の就労支援の場としてベーカリーやコミュニティカフェ等を運営。最近ではドキュメンタリー映画の制作に挑戦するなど幅広い活動を展開。
川崎
一般社団法人ピッカ
障がい児向けに、音楽、アート、ダンスなどの無料講座を企画。障がい児が出演する発表会などを各地で開催している。
川崎
しあわせを呼ぶコンサート 発起人
河合百合子さん
音楽プロデューサー。音楽を通じた心のバリアフリーをテーマに障がい者が第九を歌いあげるコンサートを立ち上げた。
相模原
NPO法人アクティブスポーツ
副理事長 佐栁(さなぎ)慶さん
障がい者サッカーチームを発足。生涯スポーツとしてのサッカーの魅力を伝えている。また、練習場は障がいのある子を育てる保護者同士の交流の場にもなっている。
相模原
NPO法人スピッツェンパフォーマンス
代表 多田久剛さん
障がいのある子どもたちだけのチアリーディングチームを日本ではじめて結成した。全国大会の舞台に立つことを目標に掲げる。
県央
録音奉仕団「あひるの会」
委員長 石射順子さん
厚木市内で視覚障がい者に向けて広報紙やタウン誌などの録音を行うボランティア団体の委員長を務める。
湘南
秦野市手をつなぐ育成会
代表 相原和枝さん
秦野市内で知的障がい者支援を行うほか、東日本大震災をきっかけに被災地の障がい者福祉施設との交流も毎年行っている。
三浦
元気もりもり山森農園
代表取締役 山森壯太さん
代表を務める農園で障がい者を積極雇用。農業と福祉の連携を進め、就労訓練をしたい障害者との互恵関係をめざしている。
西湘
NPO法人アール・ド・ヴィーヴル
理事長 萩原美由紀さん
障がい者にアートを中心とする創作活動の場を提供。ワークショップやオリジナルグッズの販売等を通して、就労機会の創出にも力を入れている。
横浜
フォトグラファー 後藤京子さん
障がい児と家族の笑顔、一枚に
横浜市都筑区在住のフォトグラファー・後藤京子さんは、障害のある子どもやその家族の写真を撮り続けている。レンズを向けるのは、被写体となる家族の何気ない日常。後藤さんはこの取組に「Loveフォトプロジェクト」と名付け、これまでに、100組を超える家族の幸せな一瞬を切り取ってきた。
自身の息子も3歳を過ぎた頃、知的と身体の障害があるとわかった。不安で押しつぶされそうな日々に、笑顔は消え、引きこもりがちになっていったという。
「どうしようと思い悩む時間が増えて。全然笑えていなかった」。
そんな後藤さんを勇気づけたのは、同じ境遇の母親たちの姿だった。前を向き、わが子を慈しむ眼差し。子どももそれに応えてとびきりの表情を見せる。
「お母さんが笑えば、子どもも笑うんだよ」と教えられているようだった。
この幸せな一瞬を、できるだけ多くの人に届け、家族や社会を元気にしたい―。
後藤さんは今、そんな思いでカメラを構えている。
これまで、県庁や区役所などで写真展を行ってきたが、「今後は学校などでもやってみたい」という。「一生サポートが必要な息子のような存在が地域で生きているということ。まずはそれを知ってもらうきっかけになれば」と優しい母親の表情を浮かべる。
Loveフォトプロジェクト
MAIL:smile06202525@yahoo.co.jp
横浜
NPO法人ぷかぷか
笑顔が飛び交うパン屋さん
横浜市緑区にある「カフェベーカリーぷかぷか」は、障がいのある人たちが働くパン屋さん。ほかに惣菜店とカフェ、アトリエも併設している。
「地域の中で障がいのある人たちと一緒に生きていきたい」と、代表の高崎明さんが2010年に、団地の中の小さな商店街に店を開いた。
ここでは、個性あふれる約40人の人たちが、毎朝出来立てのパンを販売する。
「おはようございます」。元気のいい掛け声も、店の名物だ。
「ここに来ると元気がもらえる」と足しげく通う地域の常連も多い。
店内には美味しいパンと、屈託のない笑顔。まさにほっこり、ぷかぷかとした軽やかな時間がそこに流れている。
「お店をやり始めてから、やっぱり彼らと一緒に生きていったほうがいいと、改めて思いました」と高崎さん。最近では、ドキュメンタリー映画の制作をしたり、子どもたちに本物のオペラをプレゼントすることに挑戦するなど、活動の場はどんどん広がっているという。
障害のある人との交流で生まれる「ほっこりとした自由な空気」は現代社会が抱える多くの生きづらさをも救ってくれる、と高崎さん。障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいいよ、というメッセージをさまざまな形で発信し、みんなが気持ちよく生きていける社会を実現したいと奔走する。
川崎
一般社団法人ピッカ
障がい者 アートで笑顔に
「一般社団法人ピッカ」(宮前区)は、障がい児がダンスや音楽、アートを楽しめる「チャレンジ教室」を県内の養護学校などで開催。障がいの有無に関わらず芸術や娯楽を体感できる機会を提供することを目的に、子どもたちに生きがいや将来の夢を見つけてもらう取り組みを続けている。
講師を務めるダンサーやパフォーマーには、音楽プロデューサーとしても活動する代表理事・岩永浩二さんの呼びかけに応じた著名なアーティストが名を連ねる。ダンスなどの経験がなくても挑戦できる気軽さはもちろん、「福祉の現場に本物のエンターテインメントを届けたい」という岩永さんの思いもあり、提供するイベントの内容に妥協はしない。
振り付けを覚えて一生懸命踊ったり、ミュージシャンの生演奏に合わせて絵を描いたりする子どもたちの姿に、岩永さんは「最初は緊張していた子どもたちがどんどん笑顔になっていき、最後には『ありがとう、また来てね』と見送ってくれる。たまらないですよ」と笑顔を見せる。芸術やエンターテインメントの世界に身を置く自分たちも、活動を通して子どもたちの持つパワーや可能性を感じられるという。
チャレンジ教室での体験がきっかけとなり、子どもたちのなかから将来のアーティストが生まれることも、岩永さんらの願いだ。障がいを抱えながらも強く生きる子どもたちの笑顔を糧に、多様性を認め合いながら芸術の裾野を広げていく。
川崎
しあわせを呼ぶコンサート 発起人:河合由里子さん
皆で作り上げる感動の第九
「幼い頃に聴いたベートーベンの『第九』を原語(ドイツ語)で歌いたい」。
親交のあった障がい者のそんな一言をきっかけに、宮前区在住の音楽プロデューサー・河合由里子さんは、20年前、障がい者が舞台にあがり合唱するコンサートを立ち上げた。
のちに「しあわせを呼ぶコンサート」と名付けられたこのコンサートには、宮前区内にある15の障がい者福祉施設の利用者らが参加する。
演奏会プロデュースのプロたちが各施設を訪問し、本番までに何度も練習を重ね、ひとつのコンサートを作り上げるという同プロジェクト。難しいドイツ語を語感が近い日本語に語呂あわせして教えるなど、宮前区在住の声楽家、齊藤新さんと試行錯誤しながら前例のないコンサートを作り上げた。「地域の障がい者の方々と、もともと親交があったからできたことかもしれない」と河合さんは振り返る。河合さんには、それまでにも作業所を作るチャリティーコンサートなどを積極的に開催し、障がい者への理解を広める活動を展開していた積み重ねがあった。こうした「人と人の間にある当たり前の信頼関係が何より大事」と河合さんは強調する。
現在、運営は宮前区に変わり、河合さんは顧問としてこのコンサートを見守っているが、地域の障がい者との交流は相変わらず続いているという。
「今年、20回目という節目を迎えるまでになった。この地域で始まったこの温かい取り組みが、いつまでも続いてほしい」と河合さん。20回目の今年は、8月28日(水)、宮前市民館大ホールで開催される(主催:宮前区役所/地域振興課044‐856‐3132)。
川崎市宮前区役所地域振興課
TEL044‐856‐3134
相模原
NPO法人アクティブスポーツ
副理事長 佐栁(さなぎ)慶さん
サッカーで広がる交流の輪
障がい者サッカーチームを発足し指導
スポーツを通じて共生社会の実現をめざすNPO法人「アクティブスポーツ」でまとめ役を担う副理事長を務めている。2018年4月に、障がい者サッカーチーム「FCオルテンシアアクティブ」を発足させた。2019年7月現在、知的障がいがある14歳から47歳までのメンバーが22人所属。サッカーに打ち込んできた自身の経験を生かし、他のスタッフと共に、ドリブルの基本から丁寧に指導している。
チームの目標は、神奈川県障害者スポーツ振興協議会が主催する「ゆうあいピック大会」などで優秀な成績を残し、全国大会へ出場すること。一人ひとりの個性にあわせた具体的な指導を心がける。ただ、技術以上に伝えたいのは、生涯スポーツとしてのサッカーの魅力。「何歳になってもサッカーを楽しんでほしい」と目を細める。
練習は毎週土曜日に國學院大学相模原グランドで行っている。共生社会をめざす同法人の理念に賛同した大学側から提供を受けた。練習の時間帯は、障がいのある子を育てる保護者同士の交流の場としても機能する。「親御さん同士で悩み相談をされるなど、和が広がっています」。グランドには同法人が所属するコジスポグループの健常者の中学生チームも活動している。めざす大会や年齢は違うが、一緒のグランドで汗を流すことで、互いに親しみを感じ、会話も生まれた。「誰もが楽しみや生きがいを持てる場に」という法人の理念が着実に形になってきている。
相模原
NPO法人スピッツェンパフォーマンス
代表 多田 久剛さん
日本で初めて障がい児チアチームを結成
2016年に相模原市内で障がいのある小・中学生を対象にしたチアリーディングチーム「チャレンジドチア Rainbows」を結成した。これまでダウン症や発達障がいの人だけを集めたダンスチームは他にもあったが、障がいの区別なく参加できるチアリーディングチームは日本初。
きっかけは、アメリカで開かれた「チアリーディング世界選手権大会」に日本代表チームのトレーナーとして帯同した際、障がいのある子どもたちによるチア演技を目にしたこと。繰り返し練習を重ねて舞台に立ったことが分かるほど、心がふるえる演技だった。「日本でも同様のチームを作りたい」。この日の感動を胸に、日本のチア団体へ相談に行くと、「私も協力したい」という賛同の声が次々に集まった。一方、「どのように接すれば良いのか分からない」という声もあがる。そこで医療機関と連携し、正しい知識をチアのインストラクターが習得できる仕組みも創った。
チーム結成から4年目を迎えた現在、17人のメンバーを抱える。2017年には、身体障がいのある小学生以上を対象にした「パラチア」も結成した。両チームとも、全国大会の舞台に立つことが目標だ。
指導で心がけているのは、一人ひとりの個性を伸ばすこと。「できないことに目を向けるのではなく、できることを伸ばしたい」と常に考える。チアほど個性が生きるスポーツはないという自負もある。「アスリートも障がいのある子もできた時の喜びは同じ。チアを通して達成感を味わってほしい」と意気込んだ。
県央
録音奉仕団「あひるの会」 委員長 石射順子さん
視覚障がい者の「目」に
厚木市録音赤十字奉仕団「あひるの会」は、目の不自由な人のために広報あつぎやタウン誌、雑誌などの録音ボランティアを行う団体として1974年に設立。厚木市保健福祉センター内にあるボランティアセンターで録音活動を行うほか、視覚障がい者が希望する書籍を朗読するプライベートリーディングにも対応している。
委員長の石射順子さんは「全員がいいものを届けたいという思いを持って活動しています。利用者からいただく『ありがとう』という言葉がやりがいです」と話す。小学校の教員を勤め上げ、2012年に入会。故郷の沖縄なまりをすぐに指摘されるなど、会員の朗読に対するこだわりに驚いたが、「相手があって届けるものなので、いい加減にしてはいけないという思いが会員共通の信念。決してきれいな声でなくてもいいので、はっきりと正確で、聞きやすいことが大切なんです」
広辞苑やアクセント辞典、人名事典などを活用して原稿を徹底的に読み込むため、1つのものを仕上げるのに4日間を要するという。録音ブースに入るときは、今でも背筋が伸びる思いだ。「心のバリアフリーが進めば、障がい者の方々がもっと生きやすい社会の実現につながるはず。活動を通して、そんなお手伝いができたら」と石射さん。自分たちの声が視覚障がい者の「目」となり、暮らしを豊かにする情報を届けていく。
厚木市録音赤十字奉仕団「あひるの会」
厚木市中町1-4-1厚木市保健福祉センター内
TEL046-225-2221
湘南
秦野市手をつなぐ育成会
相互理解 共生への一歩
知的障がい者や家族らで組織する「秦野市手をつなぐ育成会」は、自立支援や災害弱者となり得る障がい者のための防災体制構築など、障がいを持つ人が安心して暮らせる地域社会の実現を目指して「自分たちができることをしよう」をモットーに活動する。
同会は、知的障がい者と親らでつくる国内最大の民間団体「全国手をつなぐ育成会連合会」の地域組織として昭和42年に発足し、約260人の会員が所属。障がいを理由に、社会と関わることをためらう人や家族も多いことから、会長の相原和枝さんは「地域の協力はもちろん、当事者もしっかりと声を上げ、相互理解を深めていくことが大切」と話す。
「支援を受けることが多かった自分たちだからこそ、できることがある」と、地域での活動にとどまらず、東日本大震災の被災地支援にも取り組む。同会を中心とした有志による支援隊を組織し、仮設住宅への訪問や炊き出し、障がい者施設との交流なども毎年行っているという。
相原さんは、「障がいを抱える人たちにとって、自分の親が亡くなったあとの心配は大きいと思う」と危惧する。「だからこそ、どんなことが心配なのか、本人だけでなく周囲が具体的に考え、行動に移していくことが大切だと思います」。地域や行政と連携し、障がい者支援を通した共生のあり方を模索していく。
三浦
元気もりもり山森農園 代表 山森 壯太さん
農福連携で未来を切り開く
2011年に父親の急逝により、三浦市内の農園を継いだ。現在、従業員は知的障がいがある1名を含む3名。主力のにんじんに加え、ブロッコリー、スイカ、大根、しいたけなど、四季にあわせた様々な野菜の生産に力をいれる。また、就労継続支援B型の「虹の橋事務所」を運営。働くことが不安な人や、困難な人に対し、農園での収穫や袋詰めといった軽作業の場を提供し、社会に出る後押しをしている。一方、こうした農業と福祉の連携は、人手不足に悩む農園の大きな助けにもなった。「軽作業を手伝ってもらえる分、自分にしかできない仕事に集中できる時間が増えました」。
障がい者の雇用は農業を始めた祖父の代から積極的だった。実家に住み込みで働く人もいて「家にいるのが当たり前というか、家族の一員でしたね」と振り返る。
夢は誰もが安心して働ける「ユニバーサル農園」をつくること。農園の経営はビジネス。利益を生まなくては雇用もできない。父が突然亡くなり、急にバトンを受けた当初は、野菜づくりに四苦八苦し、収穫量が落ち込み、経営危機を招いたこともあった。今の時代、第一次産業である農業で、生計をたてるのは簡単なことではない。民間時代の知見を活かし、生産管理にITを導入したり、品目を増やしたりと、試行錯誤を続けている。
農福連携も未来を切り開くカギのひとつ。「そのためにも売り上げを伸ばし、障がい者が使いやすい機械を入れるなど、農園を改修したい」。若き経営者の挑戦はまだ始まったばかりだ。
西湘
NPO法人アール・ド・ヴィーヴル
アートで社会とつながる
障がい者に創作の場を提供する小田原市のNPO法人「アール・ド・ヴィーヴル」では、利用者がイラストやフィギュア、クラフト品など、個性豊かな作品づくりに取り組んでいる。
県西地域でダウン症児を育てる保護者のサークル「ひよこの会」による任意団体としてスタートし、2013年に法人化。16年に小田原市内にアトリエをオープンした。利用者の年代は18歳から50代と幅広く、小田原市だけでなく南足柄市や湯河原町、箱根町など近隣から通う人も多い。
施設では、オリジナルのグッズ販売や作品のリースなどで利用者の工賃を得るだけでなく、社会とのつながりを目指した展覧会、ワークショップの開催にも力を入れる。小田原市でキャンプを行うラグビーワールドカップのオーストラリア代表チーム「ワラビーズ」の歓迎フラッグ制作や、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念を広げるイベントのロゴを手がけるなど、活動の幅は広がるばかりだ。
「認められる場所を提供することで、利用者にやりがいや生きがいを感じてほしい」と、理事長の萩原美由紀さんは施設の意義を語る。障がいを理由に、自己実現の機会を奪ってはいけない―。そんな思いが、活動の根底にある。施設に通う利用者の表情が豊かになったり、車椅子を使わなくても歩けるようになったりと、日々成長する利用者の姿が頼もしいという萩原さん。「その人がハッピーになれば、家族もハッピーになる。トライアンドエラーを繰り返しながら、共生社会のあるべき形を模索していけたら」と話した。