伝えること考える機会に
○…研究書から児童書まで、幅広く手がける出版社「銀の鈴社」。その取締役として、明日から雪ノ下の自社ギャラリーで始まる「紙で伝える展」を鎌倉・湘南を拠点とするコピーライター、印刷会社の経営者とともに企画した。会場には80種類の一筆箋と18種類の封筒、多数の筆記用具が用意されており、来場者は「誰かに伝えたい思い」をそこにしたためていく。「どの便箋にどの筆記具を使って何を書くのか。『紙だからこそ、伝えられること』について考えるきっかけになったら」と笑う。
○…ネットの普及による出版不況や活字離れ―。危機感を共有する3人が、異業種交流会を通じて出会ったことが「紙で伝える展」開催のきっかけとなった。2年前に第1回を開催すると様々な反応があったという。「海外の人が『誕生日おめでとう』と日本語で書いてほしい、とリクエストしてきたことも。ネットのように瞬間的にやり取りされる言葉ではないからこそ、相手を深く想う豊かな時間があることに改めて気づかされました」と振り返る。
○…埼玉県出身で小学5年生の時に鎌倉へ。曾祖父は国語教育者で、学会の機関紙や研究書を出版するために祖父母が1967年に出版社を設立した。その後、86年に「子どもに直接思いが届く本を」と母・真由美さんらが立ち上げたのが銀の鈴社だ。大学卒業後の進路を決める際には、夢だったという教師になるか、迷ったともいうが「よい本を届けることも子どもたちのためになるはず」と出版者の道を選択した。
○…3歳の娘と生後3カ月の息子がおり、長女には自ら手がけた本を読み聞かせることも多いという。「意外なページに反応したり、発見の連続ですね」と目を細める。「本は時代を超えて受け継がれ、書かれたものが人生を左右することもある。これからも子どもに自信を持って残せるような、責任ある仕事をしていきたい」と力強く語った。